世界には様々な農業形態がありますが、ホイットルセーという地理学者が13個のグループ分けをして簡単に把握できるようにしました。これを「ホイットルセーの農業区分」と言います。
ホイットルセーという人物名をテストで問われることは少ないですが、各要素の特徴は頻出問題となります。そこで、それぞれの農業区分の特徴について理解しておくことが重要です。
以下ではホイットルセーの農業区分について、農業区分の覚え方も含めて説明していきます。
ホイットルセーの農業区分を図で解説
ホイットルセーは世界の農業を分類するとき、「自給的農業」「商業的農業」の2つに分類しました。これを簡単に図示すると以下のようになります。
自給的農業とは栽培した野菜や家畜は自分たちで食べてしまう農業スタイルになります。一方で商業的農業は栽培作物を売り、お金を稼ぐスタイルになります。
自給的農業のイメージとしては山奥で米や野菜を栽培し、ヤギのミルクを絞って自給自足している感じです。
商業的農業のイメージとして、日本では以下のようなビニールハウスで野菜を栽培し、出荷してスーパーマーケットに野菜が並びます。
ただし世界的に考えるとアメリカなどでは、ありえない規模の農業をしている地域もあります。例えば、アメリカではトウモロコシや綿花などを巨大農地で生産して世界に輸出しています。
これも広い意味では商業的農業ですが、普通の商業的農業とは特徴が大きく異なります。そこで「企業的農業」としてジャンルを追加しておきましょう。これを図示すると以下のようになります。
ちなみに、これらの農業スタイルが発展してきた歴史を古い順に並べると「自給的農業→商業的農業→企業的農業」になります。そのため自給的農業を伝統的な農業形態と説明されることもあります。
上記のようなイメージを持っていれば、ホイットルセーの農業区分は簡単に理解することができます。それでは具体的に各要素について説明していきます。
自給的農業の具体例
上記で説明した自給的農業をさらに分解すると以下のように5つに分類することができます。
移動式焼畑農業
移動式焼畑農業は熱帯雨林で古くから行われてきた農業スタイルになります。例えばアフリカでは以下のような地域で焼畑農業が行われます。
熱帯雨林では降水量が多いため、土壌中の栄養分が流されてしまいます。そうした栄養素が少ない土壌では農業が難しく、工夫が必要になります。
そこでジャングルの熱帯雨林を焼き払い、灰を肥料にすることでタロイモやヤムイモなどが栽培できるようになりました。
原始的定着農業
原始的定着農業は粗放的定住農業とも呼ばれます。原始的定着農業をわかりやすくいうと、「焼畑農業+定住」ということです。
移動式焼畑農業は数年サイクルで住居を移動しますが、粗放的定住農業は耕地は変えるけれども住居は同じ場所というイメージです。
農作物も焼畑農業で育てる作物に加えて、トウモロコシやジャガイモなども育てるようになりました。また分布地域の代表例はメキシコ南部やアンデス山脈であることがポイントです。
オアシス農業
オアシス農業は乾燥地帯で行われる農業です。砂漠などの乾燥地域では河川や地下水を利用して水を撒くことで農業ができるようになります。これを灌漑(かんがい)農業と言います。
分布地域としてはサハラ砂漠やナイル川流域が代表例です。このような地域では地下水を効率良く得るシステムとしてカナートなどの地下水路が形成されやすいです。
またオアシス農業といえばナツメヤシの栽培が盛んになります。オアシス農業も広い意味では自給的農業であるためナツメヤシは食用として栽培されていることに注意しましょう。パーム油の原料となるアブラヤシと間違えてはいけません。
遊牧
世界的な視点で農業を見ると、家畜を育てて生活する地域もあります。例えばモンゴルでは馬や羊などを遊牧しています。またツンドラ地域ではトナカイの遊牧が見られます。
チベット高原ではヤク、アンデス山脈などの高原地帯ではリャマ、アルパカの遊牧が見られます。
アジア式稲作農業
モンスーンの影響で降水量が多い地域では稲作が盛んに行われています。棚田や三角州地帯での稲作であり、規模は小さいです。
アジア式畑作農業
アジアで降水量が少ない地域では稲作ではなく、畑作が行われることが多いです。代表的な農作物として小麦、トウモロコシ、あわ、こうりゃんなどがあります。
商業的農業の具体例
商業的農業は栽培した作物を販売し、お金を稼ぐスタイルです。これさらにを分類すると以下のように4つに分けることができます。
混合農業
混合農業は作物栽培と家畜飼育を組み合わせた経営になります。例えば、家畜のエサ(飼料)を栽培し、家畜を太らせて出荷します。こうすることで高値で売れるようになります。
さらに家畜のフンは肥料として再利用できるため効率の良い農業スタイルであることが分かります。これは氷河によって土壌が削られ、栄養素の少ない土壌だらけのヨーロッパならではの工夫になります。
酪農
酪農は牛やヤギなどを飼育し、ミルクや乳製品を生産する農業スタイルです。イメージとしては北海道で乳牛を飼育し、牛乳として販売するような農業になります。田舎で飼育したヤギから生活に必要なミルクだけを搾る、自給的な農業とは異なります。
海外では移動しながら家畜を育てる遊牧や、夏場に冷涼な高地で家畜を育てる移牧などのスタイルがあります。あるいは、移動せずに同じ場所で家畜を育てる放牧もあります。
地中海式農業
スペインやポルトガルなど夏に乾燥する地中海沿岸で行われる農業を地中海式農業と言います。乾燥に強いオリーブやコルクを栽培するのが特徴になります。「オリーブといえば地中海式農業」と暗記しても問題ありません。
なお地中海性気候はヨーロッパ以外にも存在します。例えば北米のカリフォルニア、南アフリカやオーストラリアなどがあります。地中海式農業ではブドウも栽培され、ワイン産地として有名な地域が多いこともポイントになります。
園芸農業
園芸農業では花や野菜を栽培し、大都市に販売するスタイルの農業になります。例えば群馬県はキャベツを栽培し、首都圏に販売することでお金を稼ぎます。海外の例ではアメリカのメガロポリスで野菜を育てて大都市に出荷します。
あるいは大都市から離れていても温暖な気候でフルーツを栽培し、大都市に出荷する方法もあります。このように、大都市で大量に消費される野菜や果物、花を栽培するのが園芸農業になります。
企業的農業の具体例
商業的農業より、さらに利益を追求したスタイルの農業を企業的農業と言います。気候に適した作物を大規模に栽培することで、効率よく利益を出すことができます。そうした企業的農業を分類すると以下の3つに分類できます。
企業的穀物農業
小麦、トウモロコシ、綿花は世界的な需要も大きく、利益を出しやすい作物です。そこでこれらを大規模に栽培する企業が登場しました。
気候帯に沿って帯状に栽培されるため、トウモロコシを育てる穀倉地帯をコーンベルト、綿花栽培が盛んな地域をコットンベルトと呼ぶことがあります。
企業的放牧業
大規模に肉牛を育てて出荷するビジネスもあります。このときフィードロットと呼ばれる大規模な肥育場が作られます。
プランテーション農業
かつて欧米諸国は熱帯地域の国々を植民地として、そこでコーヒーや茶などを栽培し、自国に輸入するシステムを築きました。このとき、単一作物を大量に栽培する大規模農園が作られ、これをプランテーションと呼びます。
第二次世界大戦後、植民地だった国は独立を果たしましたが、プランテーション農業は現在も続いていることがあります。なぜならプランテーション農業以外に産業がない国では、それに頼らざるを得ないからです。