工場はいったいどのような基準で建てられているのでしょうか。工場の合理的な立地を初めて論じたのが、1909年に発表されたウェーバーの工業立地論です。彼は輸送費がもっとも安いところに工場を建てるのが合理的としました。その後の時代の流れにより、現在では新たな立地条件も加わっています。

今回は、ウェーバーの工業立地論や現代の工場の立地条件などをわかりやすく説明します。これを読めば工業立地論がどのようなものなのか、そこから立地条件がどのように変化していったかが理解できるようになるでしょう。

ウェーバーの工業立地論

ウェーバーの工業立地論とは、ドイツの経済学者アルフレート・ウェーバーが1909年に発表したものです。彼は費用を最小にするという考え方で、工場の立地要件を説明しました。ウェーバーの考え方を簡単に確認しておきましょう。

ウェーバーは費用の最小化について、まず「輸送費」を考えました。原材料の輸送費と製品の輸送費の合計を最小にすれば、もっとも輸送費を節約できます。

次にウェーバーは「生産費」を考えました。輸送費が一定の場合、労働費が少ないほど生産費も抑えられます。ただし、労働費の節約分以上に輸送費がかからないようにしなければなりません。

ウェーバーはさらに「集積」も考察しています。集積とは生産規模を集中拡大することです。集積により、労働力を集中させたり、工場間の協力が容易になったりすることから、生産費を節約できます。集積も労働費と同じく、節約できた分以上に輸送費がかかってはいけません。

このようにウェーバーは、輸送費・生産費・集積などの要素から工場の立地を考え、そのなかでも輸送費がもっとも重要だとしました。つまり「輸送費が最低になる地点に工場が立地する」と結論づけたのです。

原料に関する専門用語の解説

工業立地を勉強するとき、専門用語が登場します。これについては事前に意味を理解しておかなければ、試験本番で出会った場合、どうすることもできません。原料に関する用語について説明しておきます。

工業立地では、原料に関して4つの用語が出てきます。

  • 普遍原料
  • 局地原料
    • 純粋原料
    • 重量減損原料

まず原料は、普遍原料と局地原料に分けられます。普遍原料とは、空気や水などどこにでも手に入るもののことです。一方で局地原料は、石炭や石油のように、特定の産地でのみ手に入るものを指します。

局地原料は、さらに純粋原料と重量減損原料に分けられます。純粋原料は、原料の重量が変わらず製品になるもののことです。例えば綿などの繊維は、製品にしても重さはそれほど変わりません。純粋原料の場合は、原料を輸送しても製品を輸送しても輸送費が変わらないため、労働費用が安くなる場所に立地する傾向があります。

一方で重量減損原料とは、原料が製品になる際に重量が減るものをいいます。例えば、銑鉄1トンをつくるのに鉄鉱石は1.5~1.7トン、 1トンのセメントをつくるのに石灰石は1.2トン必要です。重量減損原料の場合は、原料を運ぶよりも製品にしてから運ぶほうが輸送費が安くなります。

立地条件による工業の分類

ウェーバーの工業立地論は1909年に発表されたもので、生産コストのなかで輸送コストが大きい場合に適した考え方です。しかし、時代とともに輸送コストは低下してきました。

また工業立地論では、用地代や電力費などが考慮されていませんが、業種によっては電力費などが重視されるものもあります。

そのような背景から、工業立地論のモデル改良が必要となり、現在の高校地理の教科書では工業立地について、以下のように分類されています。

  • 原料指向型工業
  • 用水指向型工業
  • 電力指向型工業
  • 市場指向型工業
  • 労働力指向型工業
  • 臨海指向型工業
  • 臨空港指向型工業

これらの分類のうち、代表的なものを具体例とともに説明します。

原料指向型の具体例:セメント工場

原料指向型とは、重量減損原料を扱う場合に適した方法で、セメント工場が具体例です。先ほど説明したように石灰石は重量減損原料で、セメントにすれば重さが減ります。原材料を輸送するよりも、製品を輸送したほうが安上がりですから、原料の産地近くに工場を建てるのが合理的です。

実際にセメント工場は、埼玉県の秩父市や山口県の宇部市など、石灰石の産地に多く建てられています。

鉄鋼業でも同様のことがいえますが、日本の場合は鉄鉱石も石炭も輸入しているため少し事情が異なり、原料指向型ではなく臨海指向型です。臨海指向型は、後ほど詳しく説明します。

市場指向型の具体例:ビール

市場指向型は、普遍原料で指向される工業で、ビール工場が具体例です。ビールの原料でもっとも重量比が大きいのは水ですが、水は基本的に普遍原料で、どこででも手に入ります。

どこでも手に入るということは、原料を輸送する必要がなく、製品の輸送費だけを考えればよいことになります。つまり、消費地に近ければ近いほど、輸送費の節約が可能です。

ビールの場合は、市場である大都市の近くに工場を建てるのが合理的で、首都圏や京阪神地区などに多く建設されています。

ただし、飲料ならなんでも市場指向型かというとそうではありません。例えば日本酒の場合は水質が、ワインは原料のブドウが重視されるため、市場指向型ではなくなります。

電力指向型の具体例:アルミニウム精錬工場

電力指向型とは、大量の電力が必要な場合に適した方法で、アルミニウム精錬工場が具体例です。アルミニウムは電気分解で精錬しますが、安価で安定した電力が必要です。

日本では、かつて水力電力を使ってアルミニウムの精錬が盛んに行なわれており、長野県の大町など水力発電所の近くにアルミニウム精錬工場がありました。

日本のアルミニウム生産量は、最盛期には世界第3位にまでなりましたが、オイルショックで電力費が値上がりしたため採算が合わなくなり、現在の日本ではアルミニウムの精錬はされていません。安くて安定した電力が確保できる中国やロシア、カナダなどがおもな生産地になっています。

臨海指向型の具体例:石油化学コンビナート

臨海指向型とは、原料を輸入する場合に指向される工業で、石油化学コンビナートが具体例です。日本で使う石油はほぼ輸入のため、港の近くに工場を建てるのが合理的です。さらに石油化学製品の多くは大都市で消費されることから、港のなかでも大都市近くの港がさらに合理的ということになります。実際に、京浜工業地帯や阪神工業地帯など石油化学コンビナートは大都市近くの海沿いに建てられています。

鉄鋼業は、かつて原料の一つである石炭の産地近くに工場を建てる原料指向型でしたが、現在では石炭も輸入するようになったため、臨海指向型に変わりました。このように時代の変化とともに、立地条件が変わったものもあります。