鉄は加工しやすい金属であるため、造船、自動車、建築物など様々なものに利用されます。鉄を作るとき、鉄鉱石を地面から掘り出すところから始まります。
日本では鉄鉱石の埋蔵量が少なく、ほぼ100%を海外からの輸入に頼っています。このように、鉄鉱石が採掘できる地域は限られているため、貿易との関係も問われやすいポイントになります。
そこで鉄鉱石の分布地域や輸送経路について説明していきます。なおアルミニウムの原料はボーキサイトであり、間違いやすいので注意しましょう。
鉄鉱石の産出ランキング、埋蔵量は安定陸塊に多い
まず鉄鉱石が採掘できる場所について確認していきましょう。鉄鉱石が盛んに採掘されている場所について、ランキングを確認してみましょう。
- 1位:中国
- 2位:オーストラリア
- 3位:ブラジル
- 4位:インド
- 5位:ロシア
これらの共通点として安定陸塊の楯状地に多いと言われています。ただし、これだけ聞いても意味が分からないと思うので、イメージできるように解説します。
安定陸塊は「平らな土地」のイメージで大丈夫です。新期造山帯や古期造山帯では山脈ができますが、そうした造山運動が発生しなかった場所が安定陸塊です。
平らな土地には土砂が堆積した卓状地、岩盤がむき出しの楯状地の2パターンがあります。硬い盾を伏せたような様子から楯状地と呼ばれます。楯状地では土壌が無いため、植物は育たず以下のように無機質な光景が広がります。
ただ、硬い地面には鉄鉱石が豊富に含まれています。ここで注目すべきことは、すぐ足元に鉄鉱石があるため、深い穴を掘らなくても簡単に鉄鉱石が手に入ります。そのため、地表から掘り進む「露天掘り」が可能になります。
ほとんどの鉄鉱石は重機を使って大規模に露天掘りが行われます。ここまでの解説で、「鉄鉱石、安定陸塊、楯状地、露天掘り」というキーワードが線としてイメージできるようになったはずです。
世界的な鉄山の具体例
鉄鉱石や鉄製品は重量が重いため、輸送や工場の立地に工夫が必要になります。可能な限り輸送コストを減らすことで利益を増やすことができるからです。このとき、鉄鉱石と相性が良いのは石炭だということが重要になります。
純度の高い鉄を鉄鉱石から作るためには、石炭によって鉄鉱石を還元しなければなりません。もう少し詳しく説明すると、鉄鉱石は酸化鉄(Fe2O3等)であり酸素(O)を取り除く必要があります。
そこでコークスと呼ばれる炭素(C)を混ぜて溶鉱炉で燃やすと、酸化鉄にくっついていた酸素原子が取れてCO2になります。こうすることで綺麗な鉄(Fe)が出来上がります。
そのため、鉄山と炭田が近いところにあれば輸送コストを下げられるので効率的に鉄を作れます。
アメリカのメサビ鉄山とアパラチア炭田
スペリオル湖の西にはメサビ鉄山があります。ここで採掘された鉄は水運を利用してピッツバーグに運ばれます。ピッツバーグはアパラチア炭田で採掘された石炭が集まる土地です。すぐ近くにクリーブランドという都市もあり、いずれも鉄鋼業で栄えた町です。
ピッツバーグには製鉄所が多く作られ、鉄の一大産地となりました。ここで作られた鉄はシカゴやデトロイトの工業都市に運ばれました。デトロイトでは自動車の生産が顕著でフォードやGMといった自動車企業が工場を建てていました。
五大湖の覚え方は「スミヒエオ」スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖
ちなみに現在ではメサビ鉄山は枯渇しているので鉄は輸入によっても供給しています。それに連鎖するようにシカゴやデトロイトは衰退し、スラム化に繋がったとされています。
オーストラリアのピルバラ地区
オーストラリア西部にピルバラ地区という鉄鉱石が取れる地域があります。この地域でも岩盤に鉄鉱石が露出しており、露天掘りが行われます。地図で示すと以下のような場所になります。
地図問題で問われやすい場所であるため、「オーストラリア西部は鉄鉱石」と暗記しておいて損はありません。またオーストラリアでは鉄鋼業が発達していないことがポイントです。
要するに、鉄鉱石をそのまま海外に輸出するだけで、炭素(コークス)を使って製鉄を行ったり、自動車を作っていないということです。
このようなスタイルになる理由として、ピルバラ地区が消費地から遠いことが挙げられます。オーストラリア西部で自動車を作ったところで、シドニーやメルボルンなどの大都市に輸送するにはコストがかかるからです。
そこで鉄鉱石のまま日本や中国に輸出した方が効率よく利益を産むことができるので、ピルバラ地区では鉄鉱石を採掘するだけです。なお、ピルバラ地区は少し内陸に位置するため、港まで鉄道で鉄鉱石を運びます。
日本の鉄鋼業は臨海指向型
日本では鉄鉱石はほとんど採掘できません。前述の通り、鉄鉱石は安定陸塊で豊富に存在しますが、日本は新期造山帯に属していることからも理解できます。
また製鉄には石炭も必要になります。しかし、石炭の採掘も日本では少ないです。そこで両方を海外から輸入して鉄を作ります。
鉄鉱石や石炭は船舶によって運ばれるため、港の近くに製鉄所を作るのが最適です。また加工された鉄を輸出する場合も海に近い方が効率的です。そのため日本ではほとんどの製鉄所は海の近くにあります。
このように輸入原料を用いて、加工した製品を輸出する場合、臨界地域に工場ができやすい傾向があり、これを臨海指向型と言います。