地中海式農業はヨーロッパなど地中海性気候(Cs)で行われる農業形態です。名称からも分かる通り、気候との繋がりが強いため試験では頻出論点になります。

しかし、地中海式農業は教科書での解説は少なく、教科書を読むだけでは十分に理解することはできません。そこで、地中海式農業について気候との関係や具体的な仕組みについて詳しく説明していきます。

地中海沿岸(南ヨーロッパ)では夏の乾季に耐えられる作物を栽培する

地中海からアルプス山脈以南の地域の特徴として、夏に雨が少なく高温であることが挙げられます。これは亜熱帯高圧帯の影響であり、砂漠と同じくらい乾燥します。例として、マドリード(スペイン)の雨温図を確認すると以下のようになります。


図を見てわかる通り、地中海性気候(Cs)の夏は降水量が極端に少なく、気温も高くなります。気温が高いものの雨がほとんど降らないため、空気が乾燥するということが理解できると思います。

さて、作物を育てる上で「雨」は大切な要素です。しかし、地中海沿岸では夏の降水量が少なく、乾燥により作物が枯れてしまいやすいので栽培できる作物が限られています。

上記の理由から、地中海性気候の地域では厳しい夏の乾燥に耐えられる作物を栽培する必要があるのです。このような気候でも作物を育てられるように考え、行われてきた農業様式を「地中海式農業」といいます。

地中海式農業の特徴は、夏と冬に栽培する作物を分けていることや、乾燥に強い家畜を飼育していることが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

代表的な商品作物はオリーブ、コルクガシ、レモン、オレンジ

では、乾燥に強い農作物はどのようなものがあるのか説明します。最初に地中海式農業で必ず押さえておきたいのはオリーブです。

オリーブは硬くて厚い葉っぱを持ち、水分をたくさん蓄えておくことができるという特徴があります。そうした植物を硬葉樹(こうようじゅ)と言い、硬葉樹は夏の乾燥が強い地域でも枯れずに栽培できます。

オリーブは基本的に地中海式農業でしか作られないと考えて良いです。オリーブが生産されていることが地中海式農業を行なっている地域の最大のヒントになるので必ず押さえておきたいポイントです。例えば、以下のオリーブの生産量トップ10を見ると、地中海沿岸の国ばかりであることが分かります。

 

資料:GLOBAL NOTE 出典:FAO

なお、地中海で栽培されたオリーブは商品として販売されます。このように、お金儲けのために栽培される作物を商品作物といいます。基本的に、栽培されたオリーブはオリーブオイルに加工されて売買されることが多いです。

また、コルクガシもオリーブと同様に硬葉樹で、夏の乾燥に耐えられる代表的な作物です。コルクガシの生産国は以下のように、ポルトガルが世界一位であることが見て取れます。

資料:Firadis WINE COLUMN 出典:APCOR

コルクガシは基本的に、ワインのコルク栓に加工されて販売されます。こちらもオリーブと同様に、お金儲けのために栽培される作物なので商品作物であると言えます。

その他には、レモンやオレンジのような柑橘類も夏の乾燥に耐えられる商品作物として挙げられます。また、ぶどうも乾燥に強く地中海性気候のエリアで生産されることが多い商品作物の一つです。なお、ブドウはワインなどに加工されて世界中に届けられています。

ここで注意してもらいたいのは、ブドウやレモン、オレンジは必ずしも地中海式農業とは言えないことです。例えば、ブドウの生産量の世界1位は中国です。これらの生産は地中海性気候でなくとも栽培が可能であるということが分かります。

これらは、乾燥や高温に強いため地中海沿岸のような気候の地域でも栽培されることが多いことだけ理解しておきましょう。以上を軽くまとめると、以下のようになります。

オリーブが生産されている地域は地中海式農業を行なっていると言えるため、地中海式農業を勉強するときは、オリーブ生産地と関連づけることが必須になります。

冬は自給的に小麦を育て、ヤギ(羊)の移牧によって食料調達

ここまで地中海沿岸における夏の作物の特徴を見てきましたが、乾燥が強いのは夏場だけです。一方で冬は降水量が増えることがマドリードの雨温図からも分かります。

この降水量が増えた冬の時期を狙って冬小麦に代表される主食作物の栽培が行われます。冬小麦は秋にタネをまき、初夏に収穫するため乾燥する時期を避けることができます。

なお、夏のオリーブはお金儲けのために栽培される商品作物だったのに対し、冬の小麦は自分たちで消費するために栽培します。これを自給作物といいます。栽培された小麦はパンにして自分たちの主食として食べられます。

小麦の他に、ヤギや羊のような家畜からもミルクや肉など自給用の食料を調達します。牛は乾燥に弱いので地中海では飼育に向きません。そのため夏の乾燥に耐えられるヤギやヒツジを家畜として飼育していることも理由として挙げられます。

ヤギや羊から取れるミルクや肉は小麦と同様に、自分たちで消費します。一方、毛皮などは商品として売買されることもあります。


ただし、ヤギや羊も夏場の暑さには耐えられません。そこで夏場は高地に家畜を非難させて比較的気温の低い涼しい場所で飼育します。このようなスタイルを移牧といいます。

スペインではメセタと呼ばれる高原地帯が広がっており、メセタの平均標高は600?700mもあります。これは、日本では長野市とほぼ同じ標高で、夏の暑さを避けることができます。夏場はこのメセタを利用して、ヤギや羊を育てることが可能になるわけです。

ここまで解説してきた通り、地中海式農業では夏はオリーブなど商品作物を栽培してお金儲けをし、冬は小麦など自給作物を栽培して自分たちで消費する特徴があることを確認しました。また、ヤギや羊の移牧を組み合わせた工夫が見られることも理解することができました。

続いては地中海式農業の分布に着目して解説していきます。

地中海式農業の分布は地中海性気候(Cs)と重なる

地中海性気候が見られる最も代表的なエリアが地中海沿岸です。イタリア、スペイン、モナコ、ギリシャなどのヨーロッパ南部がその代表的な国として挙げられます。

ただし同じ国でも地域によって地中海性気候が見られる地域が限定されることに注意が必要です。例えば、地中海沿岸のイタリア南部は地中海性気候ですが、北部の気候は地中海性気候とは全く異なる別の気候区分になります。

イタリアを例に示すように、地中海式農業ができる範囲は地中海性気候の分布と重なるため、非常に狭く限定されることが分かります。

そんな珍しい地中海性気候が見られるのはヨーロッパ南部だけではありません。以下では地中海沿岸以外の国で見られる地中海性気候の国を紹介し、それぞれの地域で行われる地中海式農業の特徴について解説します。

アメリカ(カリフォルニア)で行われる地中海式農業の特徴

北アメリカ大陸の西海岸にも地中海性気候は存在します。北緯30度から40度付近に南北に細長く分布しています。以下はCs気候の分布になります。


その地中海性気候に位置するカリフォルニアでは、灌漑を用いたオレンジなどの柑橘類を栽培する地中海式農業が特徴的です。灌漑とは、農地に外部から水路を作り人工的に水を供給することです。

灌漑を駆使することで雨の少ない乾燥した夏でも作物を枯れさせることなく、生産性の高い安定した栽培を可能としているのです。

ただし、前述のように、オレンジ生産国は必ずしも地中海式農業を行っているとは限りません。以下はオレンジの生産量ランキングになりますが、熱帯の農業大国ブラジルが世界1位となっています。

資料:GLOBAL NOTE 出典:FAO

ちなみに、日本はアメリカからオレンジを多く輸入しているため、スーパーで見かけるオレンジはカリフォルニア産のオレンジであることが多いです。

チリや南アフリカ、オーストラリアにも分布する

地中海性気候はチリの一部や南アフリカの南端、オーストラリア南部にも見られ、これらの地域は共通して南半球の南緯30度付近に点在します。

これらの地域もまた地中海式農業を行なっており、イタリアやスペインと同じようにぶどうの栽培に適しているため、ワインの産地として有名です。

ただし、これらの地域は国土の一部分であるため、「オリーブ生産ランキング世界1位」など目立った特徴はありません。地中海性農業は地中海以外の地域でも行われていることだけは押さえておきましょう。

まとめ

ここまで学習してきたように、地中海式農業は地中海性気候の地域で採用されています。その代表的な地域は地中海沿岸のヨーロッパ南部ですが、アメリカ(カリフォルニア)やチリ、南アフリカ、オーストラリアにも分布しています。

地中海性気候では夏に少雨乾燥、冬に多雨湿潤の特徴を持つため、夏は乾燥に強いオリーブやコルクがしを作り、雨が降る冬を狙って主食作物の小麦を育てながら、夏の乾燥に強い家畜のヤギやヒツジを飼育しているという特徴がありました。

夏作物は商品作物で、冬作物は自給作物であることも確認しておきましょう。注意すべきポイントとして、オレンジやぶどうなどは、地中海式農業以外でも栽培されていることです。そこでオリーブやコルクを目印に地中海式農業を判別しましょう。

これらの特徴を押さえておけば、地中海式農業の問題に迷わず回答することができるようになります。

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